1995年にデンマークでラース・フォン・トリアーらを中心に、ドグマ95いうものが宣言された。「純潔の誓い」という10つのルールを設定して、それに基づき映画を制作しようという映画運動だ。
「純潔の誓い」
1.撮影はすべてロケーションによること。スタジオのセット撮影を禁じる。
2.映像と関係のないところで作られた音(効果音など)をのせてはならない。
3.カメラは必ず手持ちによること。
4.映画はカラーであること。照明効果は禁止。
5.光学合成やフィルターを禁止する。
6.表面的なアクションは許されない(殺人、武器などは起きてはならない)。
7.時間的、地理的な乖離は許されない(つまり今、ここで起こっていることしか描いてはいけない。回想シーンなどの禁止である)。
8.ジャンル映画を禁止する。
9.最終的なフォーマットは35mmフィルムであること。
10.監督の名前はスタッフロールなどにクレジットしてはいけない。
なかなか興味深いものではあるが、「純潔の誓い」をしたとしても、これがドグマ映画だと宣言しない限りは、三脚を使用したりBGMを入れたり、ハリウッド映画的なものを作成するのは自由であり、ドグマ映画だと宣言して作られた映画においても、多少のルール違反はあるようだ。
ドグマ95の意味は何なのか明確な定義はない。ただ、その10のルールというものが、それぞれの監督の映画制作の手法に大きな影響を与えているのは確かなようだ。
ドグマ95が打ち出された次の年、ラース・フォン・トリアーは「奇跡の海」を制作している。これはドグマ映画ではないのだが、手持ちカメラを多様し、照明効果も極力抑えられていたり、明らかにドグマを意識し、さらにBGMの使い方はまったくドグマと反していて、ある意味この手法もドグマを意識した結果なのかなと思ってしまう。
そして1998年、ついにラース・フォン・トリアーはドグマ映画「イディオッツ」を制作する。知的障害者を演じることで社会を挑発するグループを描いた問題作で、非常にリアルな表現となっている。個人的にストーリーは大嫌いなのだが、これが現実社会なのかなと思うと同時にその社会の痛々しさが強烈に伝わってくるのは、やはりラース・フォン・トリアーの技量なのだろうか…彼の能力は認めざるを得ない。しかし、彼の目にはこの現実社会がそんなにいやらしく映っているのだろうか。
ラース・フォン・トリアーにとってドグマ95は修行の場なのかもしれない。
その修行が実を結んだのは、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」であるといえる。
「ダンサー・イン・ザ・ダーク」
Dancer in the Dark
2000年デンマーク
監督・脚本:ラース・フォン・トリアー
出演:ビョーク
カトリーヌ・ドヌーヴ
デイヴィッド・モース
ピーター・ストーメア
ジョエル・グレイ
音楽:ビョーク
ダンサー・イン・ザ・ダーク(2000) - goo 映画
過去にカンヌで高等技術委員賞を受賞したその技量と、ドグマで試した、現実世界をリアルに作り出す技量とを見事に融合させた傑作だと思う。
このストーリーに好き嫌いはあるかもしれない。しかし、虚構世界を描く場面ではミュージカルを徹底的に用いて、現実世界を描く場面ではドグマ的手法を徹底的に用いたこの対比は、実に見事なものだった。
ビョークの音楽、演技も、好き嫌いはあるだろうけれど、本当に素晴らしいものだった。ミュージカルだからどうしてもカトリーヌ・ドヌーヴに目がいくのだが、いつの間にかビョークだけを見つめている自分がいた。
Selmasongs
1. Overture
2. Cvalda
3. I've Seen It All
4. Scatterheart
5. In the Musicals
6. 107 Steps
7. New World
2000年カンヌ映画祭パルムドール受賞
2000年アカデミー賞歌曲賞受賞
その後、ラース・フォン・トリアーは「ドグヴィル(2003)」「マンダレイ(2005)」と制作、現在、新作「Wasington」を作成中だ。いわゆるアメリカ三部作。
僕は「ドグヴィル」を見て思った、アメリカ三部作は見なくてもいいかな...と─。
この映画は見てないんですが、話題になりましたね。
返信削除見た人は救いようのない内容できつかったと言ってましたが・・・
ビョークは微妙ですね~・・・
1枚CDを持っていましたが、美しい音作りなんだけど、運転してる時に聴くと、気分がどんどん沈んでくるのね・・・
結局、売ってしまいました。
ラース・フォン・トリアーの映画は、ストーリーがきついものばかりなので、見ない方がいいのかもしれません。一度みてしまうと、何かしら重く考えざるを得なくなりますよ。
返信削除ビョークは僕もほとんど聴きません。映画での演技や歌も好きなんですけど、どうも好きになれないのです。
ビョーク自身は、子供のころから日本人に似ていると言われて育ったために、非常に日本に親しみを持っているらしいです。だからもっとこちらも親しもうとしてはみるのですけど…、なぜだめなのかすら分かりません。
映画のサントラは大変素晴らしいと思ったので、もう一度ビョークを聴いてみましょうかねぇ。