エルミタージュ幻想
2002年 ロシア/ドイツ/日本 96分
監督:アレクサンドル・ソクーロフ
脚本:アナトリー・ニキーフィロア
アレクサンドル・ソクーロフ
撮影:テレマン・ビュットナー
出演:セルゲイ・ドレイデン
マリア・クヅネツォワ
ワレリー・ゲルギエフ
この映画は90分1カットだけです。言葉にするとあっさりした説明になりますが、これがどれほどすごいことなのか、想像することすらできないでしょう。
僕はこの映画の情報を全く得ないままに映画を見ました。長回しが続くなぁと思い、どのくらい続くのだろうと身構えていると、全然カットが切れずに最後までいってしまい、まさか1カットなんて有り得るのかと戦慄を覚え、思わずパンフレットを買い読んでいくと、1カット!だと書いているではありませんか。溝口健二やアンゲロプロスどころの話ではありません。
もっとも90分間連続撮影するには、フィルムでは無理なわけで、ハイビジョンカメラを使用しての撮影となっているわけで、技術の進歩があって実現した映画だともいえるわけです。
90分1カットというのは、正直、退屈なものかもしれません。しかも説明はほとんどなく、登場する美術品、展開する時代背景、見る側のそれなりの知識を要求していて、それがなければ全く楽しめないと言っても過言ではありません。よほどの知識がないと一度ではなかなか満足いかないわけで、それ故、何回見ても発見があると思いますが、何せ一度見出したら90分間ノンストップだから、かなり覚悟が必要な映画でもあります。
しかし、頭を真っ白にして見ることができる個所が最後のほうにあります。それは、有名な指揮者ワレリー・ゲルギエフがグリンカのマズルカを演奏している、社交ダンスのシーンです。マリンスキー歌劇場管弦楽団が演奏する「マズルカ」は2回聴くことができて、1度目はカメラがホール内をぐるぐる回って音楽と共に見ている側も踊っているような感覚になり、2度目はゲルギエフの指揮をじっくり見せてくれて、きっとグリンカのマズルカを好きになるでしょう。マズルカってダンスのための音楽なんだと実感することもできます。
演奏が終わると映画はエンディングに向かいます。たくさんの着飾った人々に圧倒され、その中をカメラが悠々と進み、どんどん人々から離れていき、ああもう終わるのか、みんなお疲れさま、お疲れさま自分、お疲れさまカメラマン…僕自身、非常に切ない思いになりました。
「エルミタージュ幻想」は2002年のカンヌ国際映画祭に出品されました。結果は何も受賞しなかったみたいです。その年のパルムドールはロマン・ポランスキー監督「戦場のピアニスト」でした。興行的にもあまり芳しいものではなかったことでしょう。ついでにいうと、日本の制作に携わった会社というのは、あの日本放送協会です。NHKのハイビジョンカメラで撮られていたわけです。
この映画が後世残っていくことは間違いないとは思うのですが、今の時代にもっと評価してあげなければ、ソクーロフやカメラマンのテレマン・ビュットナーが報われないと思うのですが、芸術とはそんなものなのでしょうか。
ソクーロフはメイキングのインタビューの中で「芸術を作ろうとした」と語っていました。もしかしたら、この過小評価も織り込み済みなのかもしれません。
96分間、頑張ってみませんか?
0 件のコメント:
コメントを投稿