チェコを代表する作曲家の一人、レオシュ・ヤナーチェク
僕は最初、この作曲家の名前を“ヤナチェック"と学んだような記憶がある。その後、どうやらヤナーチェクとするのが一般的だと知るのだが、いまだに「ナー」と伸ばす響きに違和感を覚えてしまう。
外国人をカタカナ表記すると、どうしても複数の表記が出てきてしまうもので、例えば、同じチェコの代表的な作曲家・ドボルザークにしても、ドボルジャックと表記されている場合もある。ヤナーチェクとヤナチェックも、カタカナ表記にするときに生じた微妙な差異であろうと思っていたのであるが、この場合、ほかとは少し事情が違っていた。
ヤナーチェクの音楽の特徴は、民俗音楽を基にしたメロディーとリズムにある。フィールド・ワークで民俗音楽を収集していく彼の手法は、バルトークやシマノフスキなどよりも早くから始められており、まさしくその先駆けと言っていい。
誰よりも早く民俗音楽というものに目を向けることができたのは、ヤナーチェクがモラビア地方で生まれ育ったという要因が大きいだろう。
チェコというと東部に面しているボヘミア地方というイメージが強いかもしれないが、モラビア地方というのは西部に面している地方を指し、ボヘミアとは文化も違っていて、言葉遣いも微妙な差異があり、チェコにおけるモラビア地方の言葉はいわゆる方言として捉えられている。(モラヴィア-Wikipedia)
モラビア生まれで方言を話すヤナーチェクは、「ナー」の発音がうまくできずに、自らのことを“ヤナチェック"と発音していたようだ。故に、ヤナーチェクとヤナチェックというふたつの表現が存在するに至ったのだ。
モラビアの音楽というのはリズムなどの反復はみられず、言葉の抑揚にしたがってなだらかなメロディーが展開しいく。ヤナーチェクはモラビア音楽の起因を、話し言葉の抑揚からだと断定して、言葉と旋律の密接な関係を追究したという。人の話す言葉や鳥の鳴き声などもメロディーに書き起こして収集し、極端な例でいうと娘の臨終間際のため息までも採譜したという。その結果が有名なオペラ「イェヌーファ」などに結実されている。彼の有名なオペラはほとんどが、作曲家自身で台本も書かれている。そのことからも、いかに彼が言葉とメロディーの関係というものを重んじていたか理解できる。
このヤナーチェクが追究したメロディーを、彼自身が「発話旋律」「旋律曲線」という言葉で表現し、そしてそれがスティーブ・ライヒのオペラなどにも大きな影響を与えている。
ここまで言葉と旋律を追究したヤナーチェクが、自らをヤナチェックと発したならば、やはり「ナー」ではなく“ナ"とするべきだと思うのだが…
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