銀河帝国と自由惑星同盟の宇宙戦争を描いている銀河英雄伝説は、帝国と同盟の戦争を中心に話が展開しているが、戦争事態を描かない場面では、帝国側の話と同盟側の話が交互に語られる。
第4話 「帝国の残照」 では帝国側の話で、ここに自分が最も気に入っているシーン・セルフがある。
貴族出身の主人公のラインハルトが大きな戦果を収め、上級大将から帝国元帥に昇進する場面から話は始まる。ラインハルトの姉・アンネローゼは美貌が故に、皇帝の妃として迎えられている。姉を心から愛してやまないラインハルトであったが、いつも気軽に会いに行くというわけにもいかない。何か特別な理由がなければ、兄弟といえども面会は許されないのだ。昇進をしたラインハルトは、久々に姉との面会を許された。
ラインハルトと共に姉の元へ訪れようとしているのは、平民出身で幼なじみのジークフリート・キルヒアイス。成長した現在ではラインハルトのよき家臣であるとともによき友人だ。久々のアンネローゼとの出会いに喜びを隠せない2人、そんな中、幼少のころの2人の出会いが回想される。
平民階級のジークフリート気の隣に没落貴族・貧乏貴族と揶揄されるミューゼルの一家が移り住んできた。新しい隣人はどんな人たちだろうと興味を持ったキルヒアイスが隣の家の庭をのぞいていると、そこへ同い年のラインハルトが家の中から出てきた。
ラインハルト 「誰だ?」
キルヒアイス 「あ、あぁ…隣の者です」
ラインハルト 「名は?」
キルヒアイス 「ジークフリート・キルヒアイス」
ラインハルト 「ジークフリート?俗っぽい名前だね。でもキルヒアイスっていう苗字はいいな。とてもさわやかな感じがするよ。そう、草原を吹き抜ける風のようだ。僕はこれから君のことを、キルヒアイスと呼ぶことにする」
キルヒアイス 「でも…」
ラインハルト 「君は僕と友達になりに来たんだろう?僕はラインハルト・フォン・ミューゼル、よろしく」
キルヒアイス 「…よろしく」
握手を交わす二人の前に、アンネローゼがやって来る。
アンネローゼ 「ラインハルト─」
ラインハルト 「あ、姉さん。紹介します、ジークフリート・キルヒアイスです。たった今、友達になりました」
アンネローゼ 「まぁ─…、私はアンネローゼ。ジーク、弟と仲良くしてやってね」
キルヒアイス 「あ、はい」
アンネローゼに髪の毛を優しくなでられたキルヒアイスは、照れと焦りから、突然その場から去ってしまう。
ラインハルト 「どうしたんだ?彼は─」
この場面ではワーグナーの「ジークフリート牧歌」が優しく流れている。ワーグナーが彼の息子の名前を付け、妻・コジマの誕生日にプレゼントした、まさに幸せに包まれた曲。
ジークフリート・キルアイスとラインハルトの出会いの場面に「ジークフリート牧歌」を使用するあたりに、このアニメの奥深さを感じる。
そして、何よりも、アンネローゼはジークフリート・キルヒアイスのことを「ジーク」と俗っぽい響きで呼び続け、ラインハルトは草原を吹き抜けるような響きの「キルヒアイス」と呼び続けた─、それが物語の最後の最後まで重要なポイントなっていて、ほんのちっぽけなこの出来事とが物語の大きな部分へとかかわっていくあたりが、銀英伝にはまってしまう要因なのだろう。
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