「コブラ」という作品は、即興演奏を統御するルールを“作曲”とみなした、ゲームピースと呼ばれる作品の一つです。ゲームピースという形式は、即興演奏をする際の新しい方法として、NYの作曲家:サックス奏者ジョン・ゾーンによって1970年代の後半から研究されはじめました。
ジャズの即興演奏のスタイルは、1950年代からのバップの流行によって、コード進行を頼りに音のラインを作るやり方から、1960年代のモード、と派生し、1960年代後半には完全フリーに達し、理論的にはなにをしてもよい、という状況にまで達しました。
その後の世代に属するゾーンは、次の即興演奏の可能性を考えた末、スポーツやゲームなどのルールを即興演奏に持ちこむことを思いつき、このゲームピース形式の作品を作りはじめたようです。
「コブラ」では、演奏を指示する20枚程のカードを使い、ゲームのように演奏が進められて行きます。約10人ほどの演奏者が半円状に並び、彼らの前に指示カードを出し入れしながら全体に指示を与えるプロンプターが位置します。それぞれのカードには目や耳などに触れて出すキューが決まっており、演奏者が次のカードを要求できるようになっています。カードの指示には、音量の上げ下げから、演奏内容を変えよ、とか、他の演奏者の演奏を引き継げ、といったものまであります。それらのカードのやりとりの中で“戦い”ながら、演奏者は音楽を作っていくことになります。
演奏者からの注文を受けてプロンプターはカードを提示し、演奏が始まり、また演奏者から終了の注文を受けた時に、プロンプターは終了の合図を送り演奏は終わります。
ところが、途中でプロンプターの意思に逆らう演奏者が出現し、それを“ゲリラ”と呼びます。演奏者の1人が拳を握って高く突き上げたとき、ゲリラが出現し、ゲリラのボスは他の2人を仲間に引き込みます。ゲリラは他の演奏者に勝手に指示を下して、演奏を終わらせることもできます。ゲリラ抹殺要求が他の演奏者から出た場合、ボスは誰から要求が出たのか当てる必要があり、当てれば続行、外せばゲリラは死にます。また、ゲリラは自殺できます(首のところを指で横一文字)。
上記の説明では「コブラ」をあまり理解できないかもしれませんが、要するに何をしてもいいわけです。プロンプターと演奏者を“部隊”と称し、その楽器編成も多種多様です。過去の演奏を例としてあげましょう。
【太田恵資部隊】
青木香葉 ベリーダンス
荒巻朋康 フルート、ナイ、ズルナほか
上野洋子 ボーカル
ウォルティー・ブヘリー パンフルート
太田恵資 バイオリン
大坪寛彦 ベース
海沼正利 パーカッション
クリストファー・ハーディ パーカッション
高木潤一 ギター
高良久美子 パーカッション
常味裕司 ウード
巻上公一 〔プロンプター〕
【坂本弘道部隊】
青木タイセイ トロンボーンほか
石川浩司 パーカッション
おおたか静流 ボイス
菊地雅晃 ウッドベース、エロクトロニクス
鬼怒無月 ギター
栗原正己 リコーダーほか
駒沢裕城 ペダルスチールギター
坂本弘道 チェロ、エフェクト、ボイス
四家卯大 チェロ
とうじ魔とうじ 特殊音楽家
藤井珠緒 パーカッション
HONZI バイオリン
横川タダヒコ エレキバイオリンほか
巻上公一〔プロンプター〕
【直川礼緒部隊】
権藤知彦 ディジュリドゥ
逆瀬川健治 タブラ
新川哲弥 トーキングドラム、ジェンベ
関根秀樹 うなり木、梓弓
直川礼緒 口琴
立川叔男 ハーディガーディ
辰野基康 シタール
的場直人 スリン、トーキングドラム
丸田美紀 箏
八木美知依 箏
巻上公一〔プロンプター〕
【竹間ジュン部隊】
池上眞吾 三絃
秋元カオル ギタ-、ヴォーカル
太田恵資 バイオリン
大坪寛彦 コントラバス
菅原久仁義 尺八
竹沢悦子 箏
竹間ジュン ナイ、レク
福岡ユタカ ヴォーカル
松田嘉子 ウード
松前公高 シンセサイザー、サンプラー
吉見征樹 タブラ
巻上公一〔プロンプター〕
この例はごく一部です。このほかにも、ボイス限定とか雅楽限定の部隊もありました。例をよく見ると分かると思いますがダンスなども含まれていて、演奏と同時にパフォーマンスも重要な要素となっています。プロンプターと演奏者とのやりとり、演奏者と演奏者とのやりとり、それを見るのも「コブラ」にとっては重要なのです。
「コブラ」を収録したCDも販売されています。しかし、それを聴いても謎が深まるばかりだと思います。実際に見なければ「コブラ」を理解できないでしょう。見ても全く理解できないかもしれませんが…
月1回、渋谷「ラ・ママ」というライブハウスで「コブラ」が演奏されているみたいです。「コブラ」がこれからどうなるのか、また音楽がこれからどうなっていくのか、実際に確かめてはいかがでしょうか。
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